青空を背景に立つ、ふたつの翳。
―――呼吸するのを、忘れた。
(これが、「神様」との出会いだった)
翳のひとりは、ぼろぼろに痛んだ髪を持つ平凡な女だった。
がさつな印象を受ける外観は、食い入るように開かれた強い眼にすべての印象を持っていかれるような…そんな女。
もうひとりは、形容しがたい。
女なのか男なのか、一目では判断つかないほど中性的で端正な顔…果たして端正という言葉で片付けていいのかすら悩むほど、綺麗だった。
黒い濡れ羽に、透明度の高い白磁、絵に描いたような鼻梁、そこから程よい位置にある薄く艶やかな唇。そして長い睫毛に覆われた、切れ長の青みがかった深い瞳。
圧倒的な存在感。
眼が潰れる。
「あんた、こんなとこで寝てると獣に喰われるよ」
女が言った。
ケラケラと笑うような軽快な口調は、嫌味でもなんでもない。
呆然としたまま座り込んでいる俺に、女が手を差し出す。
その手は皺だらけで、けれど汚れのないきれいな手だったから差し出されたとはいえ掴むのを躊躇った。
それを知ってか知らずか、女はまた笑って俺の手を無理矢理引き寄せる。


