「大丈夫だよ」
けれど俺の心配を他所に、倫子はからりと笑った。
なにが大丈夫なのか。
俺には全然判らない。
わからない、のに。
ふたりは何事もないかのように笑っているから。
―――そこからはもう、早かった。
アダムの力を使って逃げれば良かったのに、橘と雲雀はそうしなかったのだ。
「…ぎゃひっ」
一際体格のいい男が悲鳴を上げる。
右頬に骨の浮き出た膝を喰い込まれたからだ。
瞬発的に飛び上がって鮮やかなまでの膝蹴りを繰り出したのは、倫子。
剥き出しの膝から、男の頬骨を砕く音が響いた。悲鳴。
そうして一同が驚愕する間もなく、雲雀が軽やかに一番端に居た男の腰紐に手を掛けた。
ギリ、とちぎらんばかりに腰紐を締め上げ、男が痛みに気を逸らした瞬間、その太い脚を薙ぎ払う――倒れる瞬間、跳躍した倫子が喉元を蹴りつけた。
その瞬間にも雲雀は次の男に手を伸ばし、向けられたナイフを避けて鳩尾に一発。
硬そうな肉に喰い込んだ雲雀の細い腕が、おぞましいまでに非現実的に見せている。
―――目の前で繰り広げられる怒濤の展開に、俺はぽかりと口を開けて呆けるしかなかった。


