「…いいから寝なよ。明日は集落に向かうから、きっちり休まないと体力が続かないよ」
倒れても僕は知らないからね。
言外にそう警告したヒバリは淡白な口調とは裏腹に、それはもうゆっくりと滑らかにその綺麗な瞼を降ろした。
それはまるで催眠でもかけられているかのように俺を眠りへと誘う。
風の音を聞く前に、一瞬にして夢へと落ちてしまった。
―――穏やかに朦朧とする意識の中、柔らかな声が聞こえてくる。
「ヒバリ」
俺を起こさないように、小さく囁くような声で。
「血を流そう」
「ん、手伝って」
ゆるり。
穏やかな呼吸と共に布団から温もりが遠ざかる。
それでもまだ、殻の中から熱は冷めない。
(どうしてこんなに、暖かいのか…)
永いこと呼吸を忘れていた神様が息を吹きかえした時、世界は再び輝くのだろうか。
(それでもこの世界は真っ暗だ)
美しい空が美しい大地が美しい空気がなにを与えてくれるという。
「そりゃ間違いだね、ヒカリ」
翌朝、太陽が巡る前に起床し、洞穴を後にして四時間ほど経過していた。
既に透明感のある陽光が辺りを照らしていて、昨日よりずっと暖かい。
珍しいくらいの快晴だった。


