「ヒカリ、動かないで」
起き上がろうとした瞬間、誰かに肩を押さえつけられた。
「雲雀がやっつけてくれるから大丈夫。あんたは心配しなくていいから寝ときな」
そう言われて初めて気付く。
片方の温もりはそのままだが――これはミチコの体温――、眠りに就く頃には確かにあったもうひとつの温もりがない。
「ヒバリが…?」
あの痩身で?
あまりのミスキャストに一瞬思考が停まる。
逃げ出さなきゃならないことまで吹っ飛んでしまった。
「殺されるに決まってんだろ!アイツ、あんなひ弱な体で…」
「雲雀はひ弱くないよ。甘く見てっとチビるぞ。あいつの強さと残虐さといったらもう、魔王様も敵わない」
ふざけつつもミチコの腕はしっかりと俺を抑えつけている。
子供と大人とはいえ、びくともしない。この馬鹿力。
「とにかく離せよ!」
どちらにしろ命がかかっている。
のたれ死にならまだしも、浅ましい盗賊共に殺されるなんてごめんだ。
「あんなひょろいヤツに任せてられるか!」
ままならない体に苛立ち、思わずそう叫んでいた。
強風に荒む外でなにが起きているのか――既に足音すらしなくなっているというのに。


