「どうせまた山脈まで汲みに行くのは橘だからね」
「なに言ってんのお前。次はお前の番だろ」
「水を与えたのは君でしょ」
「…えー」
「この子の義理堅さに免じて、食料は調達してきてあげるよ」
再び口論が始まったかと思えば、水筒を手にしたまま呆然とする俺にふたりの視線が集中する。
「飲めって」
「飲みなよ」
―――こうして俺は、まだまだ謎だらけの、けれど青空のように気持ち良いこのふたりと行動を共にすることになった。
「…どこに行くんだよ」
そして二時間。
荒野はひたすら続いているのに、女、ミチコと男、ヒバリは目的地があるかのように淀みない脚で進んでいる。
どちらの方角を見ても同じ景色、同じ匂い。
植物一本も生えていないこの世界でなにを目印にしようと言うのか。
ミチコに手を引かれながら、俺は思わずそう口にしていた。
このふたりと行動を共にしてしまっていること自体謎だが、宛てもなく進む旅はもっと不可解だ。
「風が凌げる場所」
ヒバリが言う。
確かに、夜に向けて急激に冷たくなっていくこの風は体に悪い。
俺はこの風に何度となく殺されかけた。


