「飲みなー」
女が男に頬を摘ままれながらこちらを見ていた。
意を決して口にすれば、するりと喉を滑る透明な感触。
ひやりと冷えたそれは、俺が今まで認知していた「水」とは全く違うものだった。
「美味いっしょ?山脈からの湧水だよ」
さんみゃくのわきみず?
よく解らないが、この「水」は俺が今まで口にしてきたものとは全く違うものだと言うことは解った。
一口じゃ足りない、と思わず唇を舐めると。
「飲めば。喉、乾いてるんでしょ」
男が促す。
表情は淡白なままだが、別に気にした風もなくそう言ってきた。
しかしこれはこいつらの飲み水だ。
見たところ放浪の最中らしいふたりから、俺のような厄介者が飲み水を奪うことはできない。
出来ることなら腹が膨れるまでこの「水」を堪能してみたいが、出来るわけがなかった。
無言で水筒を女に返すと。
「…だから遠慮すんなって言ってんだろ。それ全部飲んじゃっていいよ」
予想外の言葉。
呆気に取られたまま固まっていると。


