ふと転がり落ちた胡桃の実に、黒い翅の蝶々が止まる。
羽を休める場所が欲しかったのだろう、ゆっくり両翼を動かしながら蝶はやがて制止して一枚の絵画のようになる。
繊細で綺麗な色を。
よくよく見れば光に透かされて淡い赤色を帯びているではないか。
なんと――…。
見え隠れする赤色に目を奪われて億劫だったはずなのに胡桃に手を伸ばした。
――…ああ。
蝶は指の間を擦り抜けて、窓の向こうに消えていく。
男は視界に置き去りにされた胡桃の実と武骨な五本の指が真っ黒な卑しいなにかを溢れさせる。
――…惨めだ。
男は胡桃を掴み、口へ運んだのだった。


