「なんかねー、こーみちゃんにはいい家庭教師が居るんだって」
「家庭教師?」
「うん。すっごく分かりやすい説明してくれるって言ってた」
「へー……」
然程興味の無さそうな口調で千洋が相槌を打った。そして次は何で遊ぼうかと辺りを見渡したとき、聖泉の制服を着た女二人を見付けた。
「おい、多江。金貰おうぜ」
とんとんと肩を叩かれた多江が、千洋の指差す方を見ると、同じクラスの松上結花(まつかみゆか)と武村かほり(たけむら‐)が居た。
この二人は亜子と同じように目立たない二人組で、大人しい性格から頼まれたことは上手く断れず、仕方なく引き受けてしまうという多江たちに取っては〝使いやすい〟人間だった。
千洋の言った金を貰おうという意味は、そのまま結花とかほりから金を貰う、そういう意味だ。今までにも何度かこういうことはして来ているが、当然口止めをするために二人は担任や親にも言っていない。
もし喋れば、何をされるか分からない。二人に取ってはお金を盗られることより、仕返しの方が苦痛だった。
