いじめがえし


からかい半分に多江が訊ねると、千洋は髪を弄りながらふと笑った。


「バカ、そんなわけないだろ。桜田はともかく篠宮はあり得ない」

「…然り気無く失礼だね」


多江ではなく槙が答え、しかし言葉とは裏腹に口調は亜子に対して申し訳ないとは思っていない言い方だった。失礼だなんて全く思っていない、寧ろ千洋の言う通りと思っているのだから。

四人が笑っている最中、千洋がその笑みを絶やした。


「ただ……」

「?」

「変な噂があるんだよ」


噂……?
多江も千波も槙も、千洋が言わんとしていることが分からずに千洋を見つめた。千洋は少しだけ声のトーンを落として言った。


「篠宮の噂なんだけど」

「えっ? なになに? 楽しそうっ」

「いや、楽しくはねえと思うけど……あいつ昔――」


期待に満ちた千波の目を見てやはり苦笑しながら答えようとしたとき。

タイミング悪く担任、基山口が教室へ入って来て席に座れと生徒に告げたものだから三人は渋々席に着いた。
そして山口が机に突っ伏したままの優一を無視して寛人に号令を掛けるように命じた。