英知は昔から、わけもなく怒り出すときがある。


もちろん、わけもなくというのは彩の言い分で、英知には何か理由があるに違いないけれど、その理由は聞いても教えてくれず、たいてい分からないままだった。


最近、英知が何を考えているのか全然分からない。


どうして急に怒り出したの?
どうして彩の手を振り払って、置いて行ってしまったの?
疑問が頭の中を飛び交う。


「何よ、今日は一日付き合ってくれるって言ったのに」


彩は強がりながらも、泣きそうになっている自分に気付く。


さっきまで、英知はすぐ側にいて、減らず口を叩きながらも彩に笑いかけてくれた。


当初は啓吾の代役のはずだったけれど、途中からそんなことはすっかり忘れていた。


英知と行った場所で英知と交わした会話は、啓吾の代わりなんかじゃない。
彩は英知と過ごした一日が楽しかった。


それなのに英知は急に怒り出し、彩を残して急に去ってしまった。