「───秀平、どうかした?」

不意に俺を覗き込んだ希美に、俺は慌てて何でもない、と首を振った。

大塚希美は元カノであり、今カノ。

以前の記憶はまだ思い出せないけれど、彼女は俺のことを誰よりもよく分かってるし、付き合っていたのはきっと本当だと思う。

「実果ちゃんとタケルくん、付き合い出したんだってね」

希美がサンドイッチをつまみながら言った。

よく知ってるな。
思ったことがそのまま顔に出たのか、俺の顔を見て希美が付け足す。

「うちのクラスでも話題だから。
やっとあの二人がくっついたって」

「ふぅん」

やっぱり他のやつの目にもそう映るんだ。
俺はそう思いながら頷き、ラーメンを啜る。

変だな。
うちの学食のラーメンは割と評判がいいのに、なぜかあんまり旨くない。

「───気になる?」

希美の大きい目が俺を見た。

「何で?」

何でそんなことを聞くんだ?
あいつらとは仲良くしてるし、全く気にならないと言えば嘘になるけど、俺には関係ないだろ。

「だって秀平は…」

そこまで言いかけて希美は口をつぐむ。

彼女はこんなふうに何かを言いかけて止めることが多かった。
まるで、全てを俺に話すことを避けているように。

実際、俺たちが何で別れたのか聞いても、希美はいつも話を反らすばかりで答えてくれなかった。