走り出しても、しばらくはお互いに無言だった。私は三島夫人の事をどう話すか考えていた。陸は、たぶん私が話し始めるのを待っているのだろう。


 車が高速に乗ったところで、私は漸く口を開いた。


「陸の彼女の事なんだけど……」


「俺の彼女? 前もそんな事言ってたけど、俺に彼女なんていないんだけど?」


「嘘つかないで!」


「嘘じゃねえし……」


「私、見たんだから。この車に彼女を乗せる所を、偶然通り掛かって……」


 噂を聞いてわざわざ見に行ったとは言わず、偶然見た事にした。