「違うんだ。結衣はよくがんばったよ。偉いと思う。心底そう思ってる。俺にはもったいないくらいの、いい嫁さんになったよな?」


「だったら、どうして、り、離婚届なんて……」


 結衣の大きな目から、透き通った大粒の涙が零れるのを見て、俺は下を向いてしまった。結衣を見てられないのと、俺の涙を見られたくなくて。


「俺たちの結婚は、初めから嘘っぱちだったんだ。俺はおまえに復讐するために、ただそれだけのために結婚した。だが、もうそんな気はなくなった。だから、もう結婚を続ける意味はないんだよ」


「わ、私は、わかっていました。孝司さんが私を嫌いだという事を。私を虐めるために、結婚に応じた事も。でも、私はそれでもいいと思いました。孝司さんが好きだから。いつか、私を嫌いでなくなって、できれば好きになってくれたらいいなって。そのためなら、どんな事でもがんばろうと……」


「結衣……」


 思いもよらない結衣の言葉に、俺は思わず顔を上げていた。