悪女の恋〜偽りの結婚〜

 結衣と離婚するのは、やめてもいいだろうか……
 このまま結衣と、暮らしてもいいんじゃないか?


 そう思い掛けたのだが……


「結衣、何で髪を縛ってるんだ?」


「あ、伸びてしまって、お料理の邪魔なので輪ゴムで縛ったんです」


「輪ゴムでって……」


 確か、以前は綺麗にブロンドに染められ、フワッとウェーブが掛かっていた結衣の髪が、今は色が褪せ、無造作に纏められていた。


「だったら、美容院へ行けばいいだろ?」


「美容院だなんて、お金がもったいないです。これで十分です」


 “お金がもったいない”なんて、社長令嬢が言う言葉なのか?

 なんて、そう仕向けたのは他でもない俺なのだが、それでいいんだろうか。俺は結衣を、どんどん不幸にしているのではないだろうか……


 俺はその晩、ベッドから抜け出すと鞄から離婚届けを取り出し、署名と捺印をした。