「なんで?」


「帰りたいからさ」


「あたしと、ヤリたくないの?」


「ああ、やりたくない」


「え? まあ、それはいいけど、慰謝料の事、ちゃんと話し合いましょうよ?」


「いいや、話し合う余地はない。それ以前に、おまえには関係ない」


「そんなぁ……」


 俺はネクタイを締め、上着を着てから遥の目を真っ直ぐに見て言った。


「会うのは、もうこれっきりにしよう?」と。


「あたし達、やり直せないの?」


「ああ、無理だ」


「そんなぁ……」


「じゃあ、元気でな?」


 俺はそう言うと、遥に背を向けさっさとホテルの部屋を出た。背後から遥の「バカヤロー!」と叫ぶ声がした。


 その通り。俺は馬鹿野郎さ。
 今頃、自分の気持ちに気付いたんだからな。