「遥、おまえ結婚は面倒くさいって、言ってなかったか?」


「それは場合によりけりよ。自分の家が持てるなら我慢する。あたし、自分の家を持つのが夢だったの。マンションじゃなく一戸建がいいなぁ。ねえ、孝司もそう思うでしょ?」


 俺は脱ぎ捨てていたシャツを掴むと、それを着ながら遥に言った。


「おまえの夢をとやかく言う気はないが、家は自分で買ってくれ」


「え? それってどういう事?」


「俺は結衣から慰謝料をふんだくるつもりはない」


「え? なんでよ? 当然の権利でしょ? 向こうが悪いんだから……」


「いいや、俺にそんな権利はない。悪いのはお互いさまさ。俺は復讐目的で結衣と結婚し、あいつに辛くあたったんだから」


「そんなぁ……って、ちょっと、孝司。なんで服着てるの?」


 俺は立ち上がってスラックスに足を通していた。


「やっぱり帰るよ」