「位置について……よーい、スタート!」


小学生のような掛声の後に、俺は適度な力で地面を蹴った。


右隣を走るのは戸崎。

さすがに、現役で陸上をやってるだけあって、走る姿は格好良い。


それに、速い――――


「おっ、櫻井もやっぱり速いな」


記録を測定した先生が、そう言いながら俺のタイムを記入した。


「ありがとうございます」

「もう、陸上はやらないのか?」


「……はい、そうですね。当分は無理だと思ってます。

もう手術自体は全て終わってますけど、本気で走ると、やっぱりまだ痛みが走って……」


記録用紙を受け取りながらそう答える。

先生は少し残念そうな顔で、「そうか」とだけ呟いた。


今日の最後の授業は、体育。

種目は、陸上。


ハードル、砲丸投げ、幅跳び、短距離走を順番にやっていく、在り来りな内容で……


今日は短距離走の日だった。