冗談だと言ってほしかった。教室に向かう途中、生徒達は尾花さんをみてひそひそと話し出すし、「あれ佐倉くん!?」理来だと勘違いした女子生徒は馴れ馴れしく話しかけてくるしで尾花さんの機嫌は徐々に悪くなっていく。


尾花さんと違って理来は誰にでも優しいから友達はすぐにできる。それもあって人気は小学生のころからすごかった。


やっとの思いで教室に戻ると、痛いほどの視線(主に女子)が突き刺さる。

「…心ちゃん。」

「何?」

「違う方法考えれば良かった。」

「もう遅いよ。」

自分から言い出したんでしょ、と言えば「そうだけどさぁ」とふて腐れる。


子供っぽいなあ、と思ったとき「心ちゃん!」と、良く知る声が聞こえた。

「あ、村上君。」

「1時間目サボっただろ〜!」

「うん、まあ…。」

「ちゃんと授業でろよな!…てか、理来…じゃないよな?」

私の隣にいる尾花さんをみて村上君は不思議そうな顔をした。

「尾花薫。」

「…へ?」

「俺の名前。尾花薫(かおる)。」

「な、ななななっ、」

全く言葉になってない村上君をみて思わず笑いそうになる。尾花さんは楽しそうに口元を緩めて村上君の頬に手をそえた。


「あ、君は私のほうが好きなんだっけ?」

声のトーンを変え、にっこりと笑みを見せると村上君の顔は真っ赤に染まった。