1時間目開始までの時間を利用して私は尾花さんに連れられ女子トイレに来ていた。

平然と女子トイレにいる尾花さん(♂)をちらちら見ていると「文句ある?」と清々しいほどの綺麗な笑みを見せてくれた。


「で、考えって何?」

「佐倉君を嫉妬させようと思って。」

「え?どうやって?」

「…心ちゃんは俺の隣に居てくれるだけでいいよ。」

尾花さんは、そう言うなり私に「誰も来ないように見張ってて。」と告げて突然自分の髪の毛をとった。


「ぇええええ!?」

「何驚いてんのウィッグに決まってるでしょ。」

「だ、だよね…」

茶色の、肩より少し短めの髪を見て私は(誰かに似てる…)と思った。

…誰だっけ?

尾花さんは顔を洗いメイクも落としていく。

「って、化粧だったの!?」

「うるさいなあ…。」

静かにしてよ、と言いながら尾花さんは私のほうを向いた。

…あれ


…………


「…理来?」


ぽつりと呟けば、尾花さんはにやりと口端をつりあげる。


「そんなに似てる?」

「う、うん。そっくり。…双子、なわけないよね?」


「なわけないじゃん。他人だよ他人。今日はこの格好で過ごすから。

本当は私の姿で嫉妬させたいんだけど、私はまだ佐倉君と知り合い程度だから無理だし?変わりに心ちゃんを使おうと思って。心ちゃんのこともからかえるし、そっちのほうが面白いでしょ?」


…このひと最低だ。

呆然としている私の顎をくい、と上に向けて理来そっくりな尾花さんは意地悪く笑った。


「心、好きだ。」

からかうように、熱っぽい声音で言われて心臓が跳ねた。どきどきしてしまった自分を殴りたい。


「どきどきした?」


「…。」

改めておもう。

私、尾花さんが苦手だ。