飄々と言ってのけるラバスに、リナはあっさりと納得の声を上げる。
 「あ、そうですか。それは残念だったね。こんなものまで用意したのに」
 花瓶を片手に肩に巻かれたショールを解いてラバスに返すと、リナは部屋に戻るために歩き出す。
 「おまえな、人の好意は素直に受け取れよ」
 それに続くようにラバスも後を追う。
 「悪いけど、好意の押し売りはお断り」
 「薬が必要になってもやらないぞ?」
 「ラバスがあたしを助けるのは好意じゃなくて仲間としての最低限の義務でしょ?」
 「だったら、これだって義務のひとつじゃないのか?」
 そう言って、ひらひらとショールをリナの前に見せると、リナは苦虫を噛み潰したような顔を見せた。
 「そうでした。ラバスの好意をあたしが受ける謂れはないものね。ごめんなさい、義務を怠らせてしまって」
 ひらひらと目の前を右往左往するショールを掴む。
 と、そのせいでバランスを崩したリナの手から花瓶が地面に向かってすべり落ちた。
 「あっ」
 慌てて掴みなおしたものの、反動でまたしてもリナは水をかぶりなおす。

 「…………」
 「…………」
 「………………もう一回水汲んでくる」
 くるりと井戸の方に向かおうとするリナの肩を掴んだのは、額を手で抑えながら呆れたため息をつくラバスの姿だった。
 「いいから、それ俺に任せておまえは部屋に戻ってな。それだけ水かぶれば、本当に風邪ひくぞ」
 その言い草に、文句を言おうと口を開くと、リナの体が軽く身震いした。
 (……確かに、これはまずいかもしれない)
 すぐに帰るつもりだったのに、足を水浴びし、ラバスとの立ち話で夜風に当たり、更にまた水をかぶってしまった。
 「お願いする」
 
 しかたなく、本当にしかたなくリナは花瓶をラバスに預けひとり部屋へと戻っていたのだった。