時刻は午後11時。

「体も温まってきたし、これでもう大丈夫ね」

雫紅は少女に語りかける。言葉を選んで。

「それで…」

「それでさっき兄さんに聞いたんだけれど、あなた記憶がないって本当?」

暫く少女は沈黙を続ける。
そして少女は口を開く。

「私は記憶がないの。名前もわからない。どうしてあそこにいたのかもわからないの!」

少女は不安が限界にきたのか急に泣き出した。

「大丈夫よ!落ち着いて!」

泣く彼女を雫紅が必死でなだめる。その時だった。

「コン、コン」

扉の叩く音が聞こえる