「翠さん、今日は静かっすね。」


 定位置のカウンターの隅に座る私に、視線を合わせる事なく話し掛けた貴方の声は、僅かに掠れていた。

 それで隠しているつもりなのが可笑しい。


「竜哉サンは、今日はアタシを誘っているんですか?」


 笑顔を貼り付けた私の言葉の意味は、貴方に分かる訳もなく、訝しげに視線を上げ私を見た。

 目がウルウルしちゃってますねぇ。


「今度は何の妄想ゴッコっすか。」


 冷たい言葉に、いつもの溜め息。

 でも、威力は半減。

 綺麗な水に取り替えられた鈴蘭の花瓶を私の前に置く貴方は、呆れたように視線を泳がせて背中を向けた。

 後ろの棚に並ぶ酒瓶を拭き残量をチェックする姿も恒例。

 足元がふらついてますけど。