「ぬかるみを歩いたかどうかは知らない。
でも歩は何かあると無口になるし。やけに窓の外を見てるから、おかしいなって」
昨日のことが、頭の中に浮かぶ。
あ...。ホントだ。
そして彼は少し歩いてしゃがみ、何かを手に取った。
「これ盗られたことにもキレたんだろ」
手の中には、あの子が盗ったネックレス。
「椎ってば、そんなこと...」
若干拍子抜けした。
すると椎は誇らしげな笑みを浮かべた。
「当たり前だろ。何年一緒にいると思ってんだよ」
不覚にもドキッと胸が鳴った。
そのまま何も考えずに、彼の胸に寄りかかった。
椎もあたしを離さずに、頭を撫でてくれた。
バニラの香りが鼻をくすぐる。
また、アイスでも食べたのかな。
自然と笑みがこぼれた。
今だけは。
今だけは主人とボディーガードの関係を忘れたい。