「やだ」 返ってきたのは、あたしが欲しくない言葉。 「どうして?! あたしはイヤなのーっ」 椎の胸を押し返す。 それでも、ビクともしない。 「今離したら、また歩が泣くだろ?」 え......。 優しい声に驚いて、ゆっくりと顔を上げる。 バチッと視線が合う。 そして、ゆっくりと椎の指先があたしの目元にくる。 あたしはその手を振り払わなかった。 「ほら」 椎の指には水滴が付いていた。 あたしの涙を拭ってくれた。