お客様が使う会場への入り口とは、別の場所から中に入る。
「椎っ! あんた、どこをほっつき歩いてたのよ」
紀子さんからパンチをお見舞いせられる。
あたしのせいだなんて、言えない...。
「あれー? どうして、椎兄ちゃんはジャケットがないの?」
椿くんがまん丸おめめで見つめる。
「ほんとねぇ...。まあいいわ。もう時間がないから」
紀子さんが微かに椎を睨んだように見えたのは...、あたしだけかな?
小さく深呼吸すると、ステージへと紀子さんはあがった。
マイクから聞こえる声。
《今日はお忙しい中、お集まり頂き、本当に有難うございました》
丁寧にお辞儀をする。

