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「ツユキさま、お加減はいかがですか?」

悠国における立場は捕虜であったが、王妃 泉の采配で、待遇は悪くなかった。
そして、誰とでも分け隔てなく接する都夕希とも仲が良かった。

後宮に立ち入ることも許されていたティアは、最近臥せっている様子の都夕希を見舞う。

都夕希はいつにないくらい気落ちしていて、一歳を過ぎた裕を隣に寝かせ、視線を伏せたままぽつりと告白した。

「ティア、聞いて。
私、もう子供が産めなくなっちゃった……」

声は切なくて、表情は乏しい。
突然のそれに、ティアは息を飲んで彼女を見つめた。

都夕希はもともと、身体の強い方ではなかった。
裕を産むときも、命と引き換えにするくらいの覚悟がなければ、医師も許さないほどだった。
産後の回復もあまり思わしくなかった。
そのあとも、後遺症が残らないとも限らない。

覚悟は、していたはずだった。
それでも。

「おかしいと思ったの。いつまで経っても身籠らないんですもの」

寂しそうに自らのお腹を見つめる都夕希に、ティアは必死にかける言葉を探した。

「でも、ツユキさま。ツユキさまには、ユタカくんがいるじゃありませんか」

それが慰めにならないことは分かっていたが、それ以外にかける言葉なんて見つからない。

都夕希は少しだけ表情を和らげ、いとおしそうな視線を健やかに眠る子供に向ける。

「ええ。それだけが救いだわ。
せめて、あなたがいてくれて」

とんとん、と布団の上から胸を叩くと、裕は機嫌良く寝返りを打った。

「大丈夫ですよ、王子はあんなにもあなたを愛していらっしゃるもの」

愛した人は、この国の王子だった。
彼には、是が非でも跡継ぎが必要だった。
男女の愛だけでは成り立たないのが、この世界だ。

だから、無理にでも子供が欲しかった。
産まなければならなかった。

だけれど、彼女の不安はなくならない。

「そうだと、いいのだけれど……」

ティアから言わせれば、王族にしては珍しいほどの恋愛結婚で、子供が居ようと居まいと変わらぬほどのラブラブっぷりは、臣下の者達を不安にさせるほど。
それに当てられたのか、最近トゥインが積極的なのが悩みの種だ。

だから、都夕希の不安は杞憂だと思っていた。
王子の普段の溺愛っぷりは、そんな不安を一掃させてくれるほどだった。

それなのに。

「ツユキさま、レイカはどちらに?席を外すなんて珍しいですね」

当時、玲香は都夕希のお気に入りの侍女だった。
いつも傍でなにかと世話を焼いているのに、今日に限って姿が見えない。

あまり人に聞かれたくない話だから別室に下げたのだろうか、と思ったが、そうではないようだ。

「玲香は最近、気分が悪いようなの。早紀が付き添っているわ」

気分転換をしようと話題を変えたのに、都夕希の声は沈む一方だった。

「あら。大丈夫かしら」

都夕希は何かを吹っ切るように首を横に振り、ベッドからティアを見上げた。

「ティア。あなたの方は、おめでたい報告はないの?私も玲香も、ずっと待ってるのに」

その表情は今日一番の笑顔だったが、今度はティアが言葉を濁らす番だった。

「えっと……。ツユキさま、私たちはまだ」

「まあいいわ。でも、そういうときは私に遠慮しないで、教えてね」

贈り物はもう考えてあるんだから、と声を弾ませる都夕希にティアは顔をひきつらせたが、元気になった様子に安堵した。