空と、絵の具と、白球と。

「昨日…美術室に忘れ物をしたの」



真剣な表情の彼女をじっと見つめながら、私は黙って聞いていた。



「それで、取りに戻った時に見ちゃったんだ。その…芹奈と野球部の人がキスしてるの」



あまりの事に、私は声が出なかった。


驚きすぎて、目を見開いたまま彼女を見返していて。



「あの人が…芹奈の好きになった先輩?」



見られてたなんて、全然気が付かなかった……。



急に恥ずかしくなってきて。


顔を真っ赤にしながら、私は黙ったまま頷いた。



「芹奈、その人の名前…訊いてもいい?」



そう尋ねたのは、祐梨ちゃんだった。



実咲ちゃんは春也先輩の事を知らない。


だけど祐梨ちゃんは、野球部の人の事を十分知っている。



そう思ったら、余計言いにくかった。


相手の事を知っている人に話すのと知らない人に話すのとでは、全然意味合いが違ってくる。



「大事な…コトなんだ。お願い、教えて」



口を開けずにいる私に、あろう事か祐梨ちゃんは頭を下げてきた。



もしかして、相手が神崎先輩だって思ってるのかな?


だから、祐梨ちゃんこんなに真剣な顔をして……。