その仮面、剥がさせていただきます!

見開いたあたしの目の中には春樹の閉じた瞼しか映っていない。

柔らかい感触が唇から脳に伝達されると、あたしは春樹の胸を思い切り突き飛ばした。

「痛ってー」

「な、何するのよ!!」

春樹が振れた唇を手の甲で押さえ、残った感触を消すように擦りつける。

「何ってこれが証拠のつもりだけど?」

あたしに突き飛ばされ尻餅をつく格好で倒れた春樹はシラッとそう言い捨てた。

「なっなっ」

いきなりの春樹のキスに怒りで興奮状態のあたしは春樹を上から睨みつけると握った拳を振り上げた。

「はいはい。春樹くん良くできました」

パンパンと拍手をした拓にぃが振り上げたあたしの手を掴み下ろさせる。

「拓にぃ!こいつ殴らせてよ!ううん。殴るぐらいじゃ気が済まない!!」

「まあ。まあ。たかがキスぐらいでそんなに目くじら立てないの。軽い挨拶程度のキスじゃない。ファーストキスでもあるまいし」

「…………」

「まさか……冗談だろ?」

そのまさかですけど何か?

放心している拓にぃから自分の手を引き離すと、作った拳を春樹に向かってまた振り上げた。

その時、あたしの後ろにいたリクが横から視界に入ると、座っていた春樹の胸ぐらを掴み頬を殴りつけた。

一瞬の出来事で何が起こったのか分からず、行き場のない振り上げた手を戻すことも忘れ、その光景を見ていた。

「はは~ん」

拓にぃが何に頷いたのかも関係なく、あたしはリクの背中越しに、口元が血で滲んでいる春樹の苦痛の表情をただ見ているだけだった。

「リツ。おいで」

春樹に何を言うでもなく、リクはあたしの手を取ると部屋から連れ出す。


リクの部屋の玄関に入ると、一気に涙が溢れてきた。

あたしの手を放したリクは無言で廊下を進んでいく。

そのリクの後姿が涙でぼやけて見えた。


こんなことなら観覧車の中でリクのキスを拒まなければよかった……


頬を涙が伝わるとあたしはその場に蹲り、顔を隠す。

どうして何もかもが上手くいかないんだろ。

潜入捜査だって粋がって始めたものの、捜査なんて何もできない。その上、その相手を好きになっちゃうし。好きな相手には想ってもらえず、おまけに……

あの春樹にキスされるなんて……

「あたしって最悪じゃん……」