「痛いじゃないの。何すんのよ!」

「あれがナンパだって気づかないお前って……」

「は?な、ナンパ?」

そんなこと今まで皆無だったあたしは全くもって気が付きませんでした……はい。

驚いているあたしのことを馬鹿にしたように鼻で笑った後、上から下にと春樹の目が動いた。

「お前。なんか変わったか?」

「…………」

自分じゃ凄く変わった気になってたのに、所詮そんなもんでしょう。

いいのよ。本人が気に入ってればそれでいいのよ。

フッと笑ったあたしは二つのお弁当が入ったコンビニ袋を持ち直して歩き出した。

「待てよ。オレ、お前に話があったんだよな」

呼び止められたところで、あたしにはあんたに話は無いですけど?

と、無視して歩き続けていた。

「お前。陸人のことが好きで付き合ってるんじゃないんだってな」

足早に歩いていた足の動きがゆっくりになる。

「陸人のことを探るために付き合ってるって本当か?」

あたしの足は完全に止まってしまった。

どうしてそれを春樹は知っているんだろう……

「本当なんだな」

春樹はあたしの背中にやっぱりなと吐き捨てるように言った。

それをリクが知ったら、どう思うんだろう。

きっと何とも思わない……

悲しいほどに何とも思われないだろう。

そう思えば思うほど鼻の奥がツーンと痛くなる。


「リクに言えばいいよ」


あたしの潜入捜査はこれでお終い。

リクに別れを告げたら、明日にでも違う女の子がリクの隣を歩いている。

それで、リクはあたしの名前すら忘れてしまうんだろう……

それでも泣かない。

今ここでは絶対に泣かない。

痛いほど唇に力を入れぐっと堪えた。


「陸人には言わないでいてやる。その代り……お前は今まで通り陸人と付き合え」

「え?だって」

春樹はそんなことは絶対許せない奴だって思ってた。

振り返って後ろにいる春樹を見ると、春樹は後ろ頭をかきながらあたしに歩み寄ってくる。

「お前が陸人と別れたところでまた新しい女が寄ってくる。だったらお前が陸人と今まで通り付き合った振りをしてくれりゃそれはない。そうだろ?お前も仲間との面目も保てるし良い考えだと思うけど?」

「それで、あたしに煩い女どもの盾になれと?」

「なんだ。分かってんじゃん」

「…………」

そんなことだろうと思った……