少しずつ大きくなる建物や人を見ながら思う。

お母ちゃんたちが日本に帰ってくるのはいつか分からない。リクが何かの事情で引っ越ししていくとは限らない。

だとすれば、リクとはずっとお隣さんなわけで。

いつまで誤魔化すことが出来るんだろう……

こうなれば、思い切って言ってみる?


その『恵理子さん』あたしのお母ちゃんなんだよね~実は勝手にあたしの引っ越し先決めてきちゃってさ。まさかリクの隣なんて思わないから驚いたよ~
ほんと偶然って恐ろしいよね~



これ全部本当のことだけど……


引く……


サ~ッという音が聞こえてリクが見えなくなるほど引かれる要素満載だな。


「やっぱダメ。言えないよ」

「言えないって?」

「あ。ううん。何でもない」

心の声が表に漏れ出すほど、あたしはテンパっている。

だから、リクが何をしようとしているのか全く気に留めていなかった。

「いつの間にか頂上過ぎちゃったんだね」

観覧車が下るのは平気みたいで、それでもやっぱり外は見ようとはしないけど、ホッとしたのかリクの表情は穏やかだった。

「リク。それどころじゃなかったもんね」

頂上付近のパニックだったリクを思い出すと笑ってしまう。

いつまで誤魔化し切れるかどうかは分からないけど、今はリクと一緒に居られることを楽しめたらそれでいい。

笑っている顔を見られないように、あたしは外を眺めるふりをしながら、リクから顔を背けていた。

「リツ」

不意に呼ばれて振り向くと、リクの顔が近くにあって、思わず後ろに退く。

でも、狭い観覧車の中はすぐ行き止まりになって、背中にスケルトンの壁が当たる。

「今度はど、どうしたのかな?」

リクのキレイな手があたしの顔横の壁に置かれると、リクの顔が徐々に近づいてきた。

え?これって。

怖いから抱きつくっていう行動では絶対にない。

それはあたしにでも分かる……

リクの顔が少し傾くと、綺麗な形をした唇があたしの唇めがけて近づいてくる。

これって、リクはあたしにキスしようとしている?