「いい部屋でしょ?」

「……ま、まあ」

「ここ角部屋だから、一部屋多いのよ。家族で住む部屋用だから広くていいでしょ?」

ご機嫌に各部屋の説明をして回るお母ちゃんはお気楽でいいなって羨ましくなる。

「まあ……そうかな」

曖昧な返事を繰り返すあたしにはお構いなしに、お母ちゃんは業者のお兄さんたちに荷物運びの誘導をしている。

3部屋あるうちの2部屋は家にあった荷物が押し込まれているようで、残りの一部屋があたしの部屋になるらしい、キッチンも、繋がっているダイニングも、位置関係は逆なとこもあるけど、リクの部屋に入った時に見たまんまだった。

「後は律子の部屋の片づけだけだから出来るでしょ?それじゃ、私は飛行機の時間があるからもう出るわね」

「え?出発って今日だったの!?」

これもまたあたしの知らないお母ちゃんの自己中な予定……

「あ。そうそう。こっちにいる拓実くんに律子のこと頼んでおいたから」

そう言い残し、ちょっとそこまでと近所に買い物に行くかのように、お母ちゃんは颯爽と海外で暮らすお父ちゃんの元に旅立っていった。



拓にぃ?

は?

冗談でしょ??


お母ちゃんの言う『拓実くん』とは、お母ちゃんのお姉さんの子供で、つまりあたしとはイトコってことになる。



その男にあたしは何度痛い目に合わされたことか……


お母ちゃん達の実家に一緒に帰った時なんかは最悪だった。

小学生になってもまだ自転車にも乗れないのかと、拓にぃは嫌がるあたしを無理やり自転車にまたがせると、もう特訓。

そして、あたしは田植えをしたばかりの水を張ってる田んぼに、頭からダイブした……

お空飛んだよ。あたし……

泥を含んだ服は重くて、田んぼから這い上がるだけでも苦労した。あの時は、本気で死ぬかと思った。

おまけに、自転車の後ろを持ってたはずの拓にぃは助けてくれるどころか、トンズラしてるし。

泣く泣く婆ちゃんちに一人で帰ると、拓にぃ呑気にスイカにかぶりついてた(怒)

ある時は近所の家の軒下にビーチボールみたいにでっかい蜂の巣を見に行った時。拓にぃ蜂にちょっかい出して、関係ないあたしが刺されるっていう最悪のパターン。

「これ見ないと一生後悔するぞ」って言葉に釣られてついてくあたしもバカだったケド……

背中に氷入れられたり、階段で足引っかけられたり、一人野球のボール拾いをひたすらやらされたり。

思い返せば、キリがないほどイジメられた思い出ばかり。



あたしが真の悪魔と称する拓にぃに、あたしのこと託して自分は呑気に海外生活ですかっ?


あり得ないんですけど……