あたしのイライラ心とは正反対のお母ちゃんのほころんだ笑顔を横目に、春休み初日の今日、あたしは人生初のお引越し。

そして、人生初の憂鬱な一人暮らしの幕開け……

軽快な音楽を聴きながら鼻歌を歌っているお母ちゃんが運転する車が、引っ越し業者の車と連なって道路の端に停車した。

ここまでくると後戻りはできない。

重い足取りで車から降りると、業者さんが荷物を運び込んでいるマンションを見上げたあたしは自分の目を疑った……


「ここって……え?なんで!?」

「律子。突っ立ってないで、早く入りなさい」

「まさかとは思うけど、お母ちゃん……あたしの引っ越し先って、ここじゃないよね?」

「何言ってるの。時間無いから急いでね」

何かの間違いかもって何度確認しても、この入口といい、この管理人室といい、このソファといい……

ここって、リクが住んでいるマンション……だよね。


急かすお母ちゃんの後についてエレベーターに乗る。

リクの部屋って何階だった?

……全然覚えてない。


「お母ちゃん……」

「なあに?」

「今からマンション変えられない?」

「そんなのムリに決まってるでしょ~」

「…………」


でしょうね……



お母ちゃんが勝手に選んだとはいえ、リクと同じマンションなんて……


春樹。あたしは断じてリクのストーカーじゃないからねっ!


誰に言うでもなく、あたしは心の中でそう叫ばずにはいられなかった。



まあ。階は違うだろうから、時間をずらせば、簡単には会わないよね。


って簡単に考えていたあたしはすぐに後悔することになる。