「なあ。陸人……」

拓にぃが一呼吸置いてリクに話しかける。


「人と付き合っていく過程で傷ついたり苦しんだり……そういうのは当たり前のことだ。そんなことを怖がってたら人と本気で向き合えない」


「でも俺はリツのことを悲しませたくない……」


リク……


「綺麗事だな。おまえはそうやって逃げてるだけだ」


吐き捨てるように拓にぃが言った。


あたしのことを悲しませたくないからもう一緒にいられない?


そういうことを言いたかったのだと気づいたとき、もたれ掛かっていた扉が開いた。


「律子……」

「リク。帰ったんだ」


膝を抱えて俯いたままのあたしを拓にぃが見下ろしている。


頭の上から声がした。


「いいのか?お前はこのままでいいのかよ」


このままで良いのかも悪いのかももう分からなくなってくる。


何も言い返さないあたしの横に拓にぃが屈んだ。


「こんなところで泣いてるだけで……いいのかよ」