あたしが王子のことを『リク』と呼べだした頃、三学期が残すところあと3日に迫っていた。

リクの中のマニュアル化した頭にはついていけないこともあるけど、慣れてしまえばどうってことない。初めの頃に比べればリクと一緒にいても疲れなくなっていた。


ユメカや隊員たちには潜入調査は長期化になることを伝え、了解を得ている。


それは、リクと何日か過ごして気づいたことがあるから。


リクは完璧なまでに自分の中にある理想の男を……たぶん、演じてるんだと思う。その仮面が剥がれたときに、きっとカノジョたちがリクから離れた理由が分かるはず。

元カノたちがみんなリクをフッたとリクから聞いたわけじゃないけど、聞いたところで答えは分かってる。


リクはきっとこう言う。


『男が女の子を傷つけちゃいけないんだよ』


どこのインチキ雑誌を読んだのか知らないけど……ね。






「リツ。一緒に帰ろ」

いつものように変わらないリクの王子スマイル。

「うん。でもちょっと待って。集めた英語のノート、澤田先生のところまで持っていかなきゃいけないから」

あたしは40人分の積み重なったノートを抱えている。

「貸して、持ってあげる」

当たり前のように微笑みながら言うリク。



女の子には優しく(by王子マニュアル)


分かっちゃいるが、こんなあたしを女の子扱いしてくれるリクにちょっとだけ感謝していた。
あたしの人生の中でもうこんなことはないかもしれない……
な~んて思ってこの状況を楽しんでたりする。


いかん。


楽しんでる場合じゃなかった。