春樹がいるってことは……

言い返すことを諦めたすぐ後に、一つの考えが浮かんだ。あたしは大袈裟なぐらい頭を振って辺りを見回す。

「陸人はいないぜ」

まるであたしの考えを呼んだかのように春樹は呆れた声で言った。

「そんなの掲示板見てるから知ってるもん」

「担任の名前もオレが同じクラスだってことも知らなかったのに、よく言うよ」

「それは当然でしょ~あんたなんか眼中にないもん」

二人を無視するように、あたしは机の上に鞄を置き帰り支度を始めた。

今日配られたプリント類を鞄に押し込めていると、あたしの前に立っていたユメカが「あ……」と小さく息を吐いた。

ユメカのことだからどうせまたよからぬことでも思いついたに違いない。

そう決めつけたあたしは無視を決め込むとカバンのファスナーを閉めた。

立ち上がろうと机に付いた手に力を入れた時、春樹があたしの耳元に顔を近づけこう言った。

「オレとの約束覚えてるよな?」

あたしの目は一瞬見開いた。

当然覚えているとも。リクにも春樹と同じことを頼まれているのだから。

「それがどうしたの?」

「忘れてなきゃいいんだ」

意味ありげにそう言うと、春樹の視線はあたしの後ろに移った。

なんなのこいつ!と思った瞬間。後ろから伸びてきた腕があたしを包んだ。

それはあまりにも突然過ぎて声を出すのも忘れるぐらいに驚く。

「リツ……」

甘い声が耳元であたしの名前を呼ぶ。

ちょっと……

な、なんなのこれは?


あたしの目がパチクリと何度も瞬きを繰り返す。

その声の主がクスッと笑うとやっと腕の中から解放された。

「陸人。やりすぎだ」

「何が?」

「見ろよ。こいつ固まって動かねぇぞ」

春樹に腕を突かれてもまだ何の反応も返せない。


「いいな~二人同じクラスで。え。席隣なの?」

「は?この女と同じでいいわけないだろっ。代われるもんなら代わってやりたいよ」


そんな会話をしてたってあたしは全く別のことを考えていた。



人ってビックリし過ぎると本当に動けなくなるのね……