「上原!」

突然名前を呼ばれて我に返る。

顔を上げると澤田先生があたしを見ていた。

「は……い?」

まだ名前も知らないクラスメートたちも一斉にあたしの方を見ていてたじろぐ。

な。なに?

先生の話など全く聞いていなくて訳が分からず恐る恐る返事をしてみた。

「上原はそれでいいか?何か言いたいことがあれば遠慮なく言っていいぞ」

「いえ……別に何も……」

話しの内容も分かっていないのにそう答えると、先生は満足したように頷き「それじゃ。次」と言って黒板に何かを書き始めた。

助かった……?

よかった~と安堵していると今度はみんなが一斉に拍手をし始め、あたしもみんなに合わせて手を叩いてみた。

「こんなにすんなり決まったのは初めてだ。こらからこのメンバーで高校生最後の一年間を過ごすことになるが、この調子で纏まったクラスになるように期待しているぞ。それじゃ後は上原と新名、前に出てきて係りを決めてくれ」

はい?

「上原。最初の学級委員長の仕事だ。早く出ろ」

どうしたらいいのか分からずキョロキョロと不審な動きをしていると、先生が催促してくる。

「……が、学級?委員長?」

黒板を見ると自分の名前がでデカデカと書かれてあった。


ネガティブツアーに参加しなければよかったよ……


ツアーガイドもいなくて道に迷っている間にどうやら世の中の状況が変わったようだ。


しどろもどろではあったが、気持ちを切り替え何とか係り決めを終えるとすぐにHRが始まり、教室から出られないまま帰宅時間になってしまった。


「疲れた……」

体調不良も重なり、全神経を使い果たしたあたしは崩れるように机に頬を擦りつけるとひんやりと冷たい。

「お勤めご苦労さま」

頭の上から茶化したようなユメカの声が聞こえた。

そういや。この女。また同じクラスなんだわ……

重い頭を持ち上げユメカを上目で見ると隣に春樹が立っていた。

「な、なんであんたがここにッ」

驚きすぎて仰け反った身体で椅子が後ろに倒れそうになった。

「ずっとお前の隣の席にいたけど?まさか気づいてなかったとは……流石。バカすぎる」

「バカ?バカって……」

その後の反論もできず、あたしは口をパクパクさせるしかできなかった。