ネットカフェの個室の黒い椅子の上で体を丸めて眠っていた。

机の上に備え付けてあるパソコンの横に置いたケータイのバイブ音が何度鳴ったか分からない。

どうせ拓にぃが心配してかけてきてるんだろう。

出たところでお説教をされるだけ。

あたしは電話には触れもせず自分を抱きしめるようにして目を閉じた。


コンコン。

と隣の壁からノックをされるとあたしは「すみません」と小声で言ってケータイを手に取った。

鳴りやまないバイブ音に隣のお客さんが業を煮やしたのだろう。

ったく。

拓にぃしつこいったらありゃしない。

帰らないって言ったら帰らないのに!

掴んだケータイを一応チェックしてみる。


え?


確かに拓にぃからの履歴もあるけど、それよりも多いのはリクからの電話……

なんで?

メールも入っている。

恐る恐るリクからのメールを開けてみる。

『リツ。ちゃんと話しがしたい。今どこにいるの?』

そんなの……

リクには関係ないじゃない?

あたしに言い訳したって仕方ないよ。

なのに。どうしてこんなに何度もあたしに電話してきてるの?

も……

分かんないよ……


リクからのメールの文字が涙で滲んでぼやけていく。

その時、またリクからの着信があった。

画面を流れるリクの名前を見て躊躇いながら電話を耳に当てた。

<リツ?>

「う……ん」

<良かった。何かあったんじゃないかって心配してたんだよ>

何かって……

本当は知ってるくせに。

あたしがあの時部屋にいたことをリクは知っていた。

そうでしょ?

それなのに、いつもと変わらない優しいリクの声に、もうどうしたらいいのか分からなくなる。