美味しく朝食をいただいた後、リクは寝癖を直しに洗面所に入った。

その間にあたしは洗い物をする。

「なんか……新婚さんみたい?」

鼻歌など歌いながらも割らないように慎重に洗う。

「新婚が何?」

いないと思ってたリクに後ろから話しかけられ、危うくお皿を落としそうになった。

「何でもないよ。あれ?リクどこか出かけるの?」

上着を羽織った姿で立っているリクを見ながらお椀を洗う。

「夕食の買い物に行こうかと思って。リツも一緒に行かない?」

お昼はカレーで、夜もカレーだとばかり思ってた。

澤田先生も三日は食べられるって言ってたし。

「リク。あたしの作ったカレー。不味いって思ってんだ?」

「そうじゃないよ。その反対。美味しくて全部食べちゃいそうだから、今から夜の分の買い出し」

「さすが……上手いこと言う」



お昼の分はいいとして、いつも作ってもらうだけじゃなく材料費まで出してもらうのは申し訳なく思い、あたしも買い物についていくことにした。

スーパーのカゴを持つリクの隣を歩く。

「あたしが持つよ」

「いいよ。重くなるから」

またまた、さすがっ。

顔良し、性格良し。こういう男っているのね~

だから。どうして元カノたちと別れたのか益々気になるのよね。

それに奈緒子のあの言葉も……

「リツ。何食べたい?」

「今はお腹いっぱいで考えられないよ。っていうか、あたしたちって食べることばっかりだね」

「そういえばそうだね」

顔を見合わせて笑う。

「今はやっぱり恋愛より今日何を食べるのかが重要だよ。あたし、一人で暮しなさいってお母ちゃんに言われた時から何が心配って、食事のことだったんだよね。だから、リクには感謝してる。どう頑張っても、あたしにはリクのように作れないし」

カットバンだらけの手をヒラヒラさせる。

「感謝されちゃった」

「あ。だからって、あたしも手伝うからね。少しでも作れるようになって……」


いつまでもリクに頼れない。

もしもリクの隣にはあたしじゃなくて、可愛らしい女の子が微笑んでいる時が来たら。

そうなったらリクに甘えることもできなくなってしまうんだから。

「リツ?」

「その時はリクに毒味してもらうからね」


覚悟しててよ。とリクの背中を叩いた。


こうしてると、あたしたち上手くいってるように見えるんじゃない?

どこにでもいる普通の恋人同士みたいにみえるんじゃない?


でも。


期待したらいけないんだ……