奈緒子の瞳には次に零れる涙が膨らんでいる。

「陸人の優しさの裏には残酷さがある。時々そう感じてた……」

残酷さ?

確かにゾクっとするほど冷たい目をする時がある。

でもそれはあたしにじゃない。

あたしを庇ってくれる時や守ってくれる時……

「りっちゃん。陸人には気を付けた方がいい。今は詳しく話せないけど、陸人といつも一緒にいる人たちにも気を付けて」

それって春樹のこと?

奈緒子は周りを窺うように見た後、テーブルに置いてあったケータイを掴むと席を立った。

「奈緒子はそれで学校に来なくなったの?」

まだまだ聞きたいことはたくさんある。

リクが原因で奈緒子が離れたとしたら、それだけじゃ納得がいかない。

「ごめん。私が話せるのはここまでなんだ」

あたしから逃げるように去っていった奈緒子の言葉を何度も思い返す。

奈緒子の気持ちを分かってあげられる所はたくさんある。

でも……

やっぱりあたしは自分で見たことや感じたことしか信じられない。





次の日の朝。隣のリクんちの前に立ち、広げた手のひらの中にあるカギを見ていた。

勝手に入るのってやっぱい良くないよね。

そう思ってチャイムを押すと、少し経ってからリクが玄関のドアを開けた。

「入って来てくれれば良かったのに」

いつもと変わらないリクの笑顔。

奈緒子の『残酷』という言葉が全然ピンとこない。

「リク。寝癖ついてるよ?」

指摘すると慌てて髪を押さえるところとか、超萌え~なんですけど。


それとも……

これから分かっちゃうのかな?

まだ知らないリクの本当の姿を……


リビングに入り春樹がいないことを確かめるとホッとした。

だって、春樹がリクの『彼女』を排除しようとしていることは、いくら鈍感なあたしにだって分かる。

春樹の嫉妬も可愛いのもだと思うけど……