said yui

気付くと、真っ暗な世界にいた。

あれっ、私は…

「気が付いた?」

「あなたは?私デートしてたんじゃ…。」

「してたわ。人生最後のデートを。」

「人生最後?」

次第に記憶が鮮明になる。

あっそうだ。

私、宏介の横で、公園で遊ぶ子供たちを見てたんだ。

そしたら風が吹いて、ボールが転がって、男の子がそれを追いかけてて、その子が飛び出しそうになって、それで追いかけたんだ。

それから、男の子…どうしたんだっけ。

「その少年においついた途端に、あなたは目の前に車が迫っているのに気付き、少年を突き飛ばして、自分だけ弾かれたのよ。」

「弾かれた?」

嘘よ。

だってあのとき信号は…。

「わき見運転をしていたのね。信号にも、あなたにも気づかなかった。」

女が私に告げる。

「じゃぁ…私は。」

「即死よ。」

「そんな…。」

頭が真っ白になった。

私は…死んだんだ。

落ち込む私に、女が再びなにかを言った。

「でもね、神様も鬼じゃない。不慮の事故で亡くなったあなたに時間をくれた。」

「時間?」

「心残りのなくなるまで、下界にいなさい。」