「ハナちゃん! 遅くなっちゃってごめんねー。もう上がって大丈夫だよ」

「あ、佐野さん! 大丈夫ですよー! それより、機械直りましたか?」

タイムカードを機械に通しながら、振り返って佐野さんに声をかける。


「うーん、どうかなー。あれも古いからなぁ……」

「そっかー。じゃーもしも直らなくて捨てるなら、私にくださいね」

二カッと笑ってそう言えば、佐野さんはシワだらけの目を細めて優しく笑い返してくれる。


「もらってどうするんだ? まさか、家でやるとか?」

「そうですよー。家で猛特訓するんです! 目指せ、ウィンブルドン!!」

「ハナちゃん、帰宅部だよね?」

「えへへ」

「ホントに面白いなぁ、ハナちゃんは。……あぁ、引き止めて悪かったね。もう帰らないと! ご両親も心配するから」

そう言って、ジェントルマン·佐野さんは、いつものように「ありがとうね」と笑って、事務室のドアを開けて私を送り出してくれた。