「疲れたー」


まるで他の言葉を知らないかのように、皆それを口にする。



少しヒールの低い靴を脱ぎ捨て、畳を踏む。



そして、既に敷いてある布団にダイブした。



「疲れたー」



またこの言葉だ。



蒼井睦月は安心しきったようにふかふかの布団に身を預けた。



「睦月さん無防備ですよ」



後ろからついて来ていた藤野七海が乱暴だった睦月のせいであちこちを向いた靴を綺麗にならべながらニヤリと笑った。



「あっごめん」



振り向いて並べさせていることを知った睦月は、慌ててお礼を言うも、駆け寄ることはしない。



それほど疲れていたのだ。



睦月たちは社員旅行で京都に来ていた。



1日のスケジュールが終了し、今は旅館で一休みというわけなのだが、あまりのハードスケジュールに力が抜けたように倒れこんでいた。