夕方、家元と奥様がお見舞いに来てくれた。

今しかないと思い、幹部を辞退したいと申し出た。
丁重にお断りしたけれど、ちょっと不満そうだったのが印象的だった。

「君は若いが優秀だし、見込んでいたんだが…」

でも、もうあの場所に帰りたいとは思わない。


「泰如さえ、出て行かなければ・・・」

奥様の口から出たのは、かつては私の許嫁だった人の名前。
彼と結婚していたら…きっと醜い人間関係を知らないまま、裏方として生きていけたかもしれない。

「泰如さんなら、きっと戻って来られますよ。
いつとは言えませんけれど、きっと・・・」

私は自分の思ったままを口にしていた。


「あんな馬鹿な真似をしたヤツなど、戻って来ても家には入れん!」

家元は怒った風だけれど・・・。

親子だもの、いつかは和解出来ると思う。
そして、二人で立て直さなければ、緋笙流の未来は…無い。