ジェフティ 約束

 辺りは鬱蒼と生い茂る森。ラルフの身長ほどの下草がびっしりと生え、背伸びをしてみてもそれほど遠くは見通せない。
「彷徨いの森だ……」
 ラルフはここがどこだか見当が付いた。
 テルテオ村の南に広がる、広大な森、通称『彷徨いの森』。地の利のある村人でもあまり近寄らない場所なのだ。

 ラルフが身を投げたコドロー橋の下を流れていたシナイ川は、この彷徨いの森を抜けると、やがて川幅が広くなり、アロフ国の真ん中を通り大海へと繋がる。自分はまだアロフ国の手前にいるのだと想像できた。森が途切れた辺りがアロフ国とノベリアの国境に位置するからだ。
 ラルフが今いる場所は、川岸に面している部分で、そこだけ砂地だったためか草も生えず円形に開けている。ラルフは川へと歩み寄ると、その冷たい雪解け水を両手ですくった。
 この水は今でもテルテオから流れてきていて、自分と繋がっている。しかし、もうあの場所には戻ることはできないかもしれないのだ。