ジェフティ 約束

 アスベリアに勝機はない。誰もが思ったその時、アスベリアがノリスと剣を交わらせたまま、ふっと笑顔を見せた。
「昔のあんたなら、オレの命はすでになかった。
 時間稼ぎをしても、村人は助からないぞ。いずれ追っ手がかかる。それとも……、家族の前であんたの本性を見せるのがそんなに怖いのか」
 久しぶりに間近に見るアズライトブルーの瞳が、悲しそうに揺れた。
 この二年間、剣を握っていないのだろう。それでもこの男の骨まで染みた剣技に衰えはなかった。お互いに剣を構えて向き合ったときから、アスベリアには分かっていた。ノリスがアスベリアを殺すつもりなどないことが。
「しかし、それでは村人を救うことはできないぞ!オレを殺せ。鬼神に戻り、地獄に身を沈めろ」

 ――あんたは血にまみれてこそ、ノリス=ペルノーズなんだ。オレもあんたも、戦いの中でしか、返り血をすすってしか生きられない罪人なんだよ。それを捨てて、ここで死ぬつもりか。