ジェフティ 約束

 ノリスが怪我をしていたとは、気が付きもしなかった。王についてカリシアに戻ったのは怪我のせいで、あの時影武者を連れて逃げられるのは自分しかいなかったからだ。逆恨みも甚(はなは)だしい。
「お人よしだ……、あいつは」
 アスベリアは思わず呟いていた。
「まあ、奴は根っからそういう性分だ。
 ところでだな、アスベリア……」
 ベラスは表情を引き締めて改めてアスベリアに視線を向けた。
「君は一体何をした?国境付近まで南下していたコドリス軍が、突然引き返していったとの報告が入った。
 それに、君が持ち帰ったあの剣……。あれはどういうことだ?」
 ベラスの視線の先には、ベラスのガウリアン鋼で打たれた剣が、青白い光を発しながら台の上に置かれていた。
「あの剣には、コドリス王家の紋章が刻まれていた。あれをどこで手に入れた?」
 アスベリアの視線が一瞬彷徨った。喉の奥で詰まった言葉が、行き場を失い渦を巻く。ペルガ村のことは言えそうにない。しかし、アスベリアのその態度で、ベラスには何か伝わってしまったようだ。