ジェフティ 約束

 インサは手を振って女と別れると、さらに路地の奥へと進んでいく。
「な、オレってこのあたりじゃ顔が利くだろう」
 インサは得意げにラルフを振り返った。なにか、釈然としない。
 路地を奥へと進むに連れて、暖かい食べ物の匂いが漂ってきた。また腹が鳴る。
「ここだ」
 インサが立ち止まったところは、店の裏口といった感じの場所で、ドアの傍らに置かれた大きな樽の中には、生臭い魚の頭だけがたくさん詰まっていた。
 ――旨いものって、まさかこれじゃないだろうな。
 怪訝そうに眉をひそめたラルフを見てインサは苦笑した。
「まさか、これじゃねえよ。中にあるんだ。おーい、マスターブリッシュ!」
 インサは大きな声で誰かを呼びながら、裏口のドアをたたく。ドアの向こうでは、包丁で何かを刻んでいる音や、料理のオーダーを読み上げる声がひっきりなしに飛び交っている。
 何度目かインサがドアをたたいたとき、中から閂を抜く金属がこすれた音がし、がちゃりと留め金が回ってドアが開いた。