「私、こっちのベッドでいいー? 窓際って怖くてダメなんだよね」
「いいけど……。そんなこと言われたら、私も怖くなるんだけど」
「えー。胡桃、お化けとか信じなさそうじゃん!」
セミダブルのベッドが、二つ並んだバンガローの中。
凄い量の荷物を篠崎君に運び込ませたマコが、入口側のベッドに腰かけながらケタケタと笑った。
まったく、人を何だと思っているのか……。
「いやいや……。怖いでしょ、普通に」
「へぇー。まぁ、そんな事言われてもベッドは譲らないけど」
「はいはい」
相変わらず自由奔放なマコだけれど、私も人の事は言えないから、この子といるのは本当に楽。
マコには女の子独特の気遣いが不要で、お互いに言いたいことを言い合える存在というのは凄く大切なのだとつくづく思う。
「それよりここ、いいねー! ベッド広いし、シーリングファンとか付いてて無駄に豪華ー!」
「確かにねー。広いお風呂もあるし!」
まだ出来たばかりらしいこのバンガローは、木のいい匂いがする。
「何か落ち着くー」
そんな言葉と共に、パタリとベッドに倒れ込み、ゆっくり目を閉じると、なんだかもうすぐに眠ってしまいそうだ。
すると隣のベッドからクスッと笑う声がして、
「昨日の夜、興奮して寝付けなかったってホント?」
冷やかすような言葉に、閉じていた目を開いた。
「……誰から聞いたの?」
「城戸に決まってんじゃん」
「ですよね」
本当にあの男は……。
「『アイツ、真夜中に電話かけてきやがってよー』って、言葉のわりに嬉しそうにニヤケながら語ってたけど」
「……」
“ニヤケながら”って、絶対に脚色されてるよね?
「ホントに仲良いよね」
訝しげな視線をマコに向けるも、それは軽く受け流され、変わりにそんな事を告げられた。
「まぁ……そうだね」
こんな事を言うのもどうかと思うけれど、自分でもそう思う。
今までだって彼氏がいた事はあったけれど、こんなに気を遣わないでいられる相手は初めてで、きっと春希も同じ感覚なのではないかと思っている。
「うわー、ムカつくなー」
呆れたように笑いながらも、まるで自分のことのように「でもまぁ、幸せそうで何よりかっ!」と微笑むマコに、私もにっこり微笑み返した。

