春希が見付けた穴場スポットは、大学がある市内から、車で二時間ちょっとの距離にある、ダム湖近くのキャンプ場だった。
本当は海に行きたかったらしいけど、一応宿泊地の近くにグラウンドがある所じゃないとマズイだろうという事で……。
運動公園が隣にある、ダム湖の近くのバンガローを何棟か借りたらしい。
「私こういう所、初めて!」
興奮気味に周りをキョロキョロと見廻す私に、マコが目を大きく見開いた。
「えぇっ!? 小さい頃、野外活動でキャンプとかしなかったの!?」
「うん」
「家族で来たりとかは!?」
家族……。
「家族となんて、尚更ないよ」
ポロリを零れてしまったその言葉。
「え?」
「あー、ごめん! 何でもない。ほら、さすがに篠崎君怒ってるよ!」
「えぇー……。まったく、あのくらい持ってよねー。てか、バッグ下に置くなー!!」
理不尽な逆ギレをするマコの背中を見送りながら、私はゆっくりと溜め息を吐いた。
家族か……。
そうなんだ。みんな小さい頃に、家族でこういう所に来たりするのか。
そんな事を考えながら下を向いた私の頭に、大きくて温かい手がポンと乗せられて、俯いていた顔を上げる。
「家族も色々だろ」
「……」
「ん?」
「ありがと」
「お礼の意味がよくわからんけど。じゃー、“どういたしまして”」
見上げる私にそう言って、フッと笑うのは、他でもない春希。
春希に家族の事を話した記憶はない。
「きっとここだったら、星すげー見えるな」
「うん。スゴイ楽しみ!」
けれど、こうして空気で感じ取ってくれる彼は、本当に凄いと思った。
目を細めて笑う彼に笑顔で頷いた私の頭を、もう一度ポンポンと叩いて、
「一緒に見ような」
柔かい声でそんな言葉を落とした春希に、胸がトクンと心地のいい音を立てる。
やっぱり私は、この人のこの声が大好きなんだ。
高くもなく、低すぎもせず。
心地よく鼓膜を振動させるその声は、私の鼓動をいつも速めて、キュンとさせる。
もちろんそれは、声だけではくて、黒い瞳も髪の毛も、頭一つ分高い身長も、大きくて骨張った手も。
とにかく、彼の全てが私をときめかせる要因なのだ。

