「行ってきます」

「はーい、気を付けてね」


少し恥ずかしそうに挨拶をして家を出て行ったのは、最近春希によく似てきた“愛息子《まなむすこ》”。


「あれ? あいつ出掛けたの?」

それと入れ違いで、二階から下りてきた春希の頭には、寝癖がピョコピョコ。


「おはよう。寝癖すごいけど」

「おー、おはよ。寝癖は……昨日の夜のお前のせいだな」

「……」

「まぁ、それはいいとして。あいつどこ行ったの?」

「んー? 今日はサッカー教えてもらうんだって」

「ふーん。誰に?」

「……」

「え? なに?」


いや、別にいいんだけどさ。

いいんだけど……。


「優太くんのお父さん」

「“優太くん”って?」

「宮崎さんちの」

「はぁ!? お前、起こせよ!!」


だから嫌だったんだよねー……。


「宮崎さんって、あの“宮崎さん”だろ!?」

「そうだねー」


昔から宮崎航太というサッカー選手が好きだった春希。

あれから色々あって、横山先生の病院は、獣医を目指している先生のお孫さんの為に返すことにした。


それで、新しい街で動物病院を開いたんだけど……。


「胡桃!! 出掛ける準備しろ!!」

「は!?」

たまたま息子の遥人《はると》が転校した学校に、宮崎さんの息子がいた。


すっかり仲良くなった遥人と優太君は、休みの日に、よく一緒にサッカーの練習をしている。


「場所は? 聞いた!?」

「聞いたけど、また遥人に嫌な顔されるよ?」

「……」


そこに時々やって来て、二人にサッカーを教えてくれる宮崎さんに、春希は会いたくて仕方がないらしい。


「止めといたら?」

「ヤダ。行く」

「もー!! またしばらく口きいてもらえなくても知らないからね!!」

「あんなクソガキの反抗期なんて怖くねぇし」


フンッと鼻で笑った春希は、出かける気満々で、仕方なく準備をした私の手を取ると、真っ青な空の下に大きく一歩踏み出した。